ゼンキンメタルでは、お客様のアイデアやご要望に柔軟に対応する技術を磨くため、社員一同日々技術研鑽に励んでいます。
2023年11月より全6回に分けて開催されました、外部講師を招いた社内溶接研修の模様をレポートします。
【溶接研修カリキュラム】
- DAY1金属素材の性質を学び、TIG溶接の技術と機械操作を習得する
- DAY2ミドルパルス溶接の技術を習得し、JIS溶接課題に挑む
- DAY3アークスポット溶接とミドルパルス溶接の技術を学ぶ
- DAY4アークスポット溶接とミドルパルス溶接の技術を使い、12面体作品を作る
- DAY5ローリング法を習得し、32面体作品を作る
- DAY6研修を振り返り、今後の課題を整理する
【講師】
【受講メンバー】
溶接の基本技能を楽しみながら学ぶ!
ステンレス鋼を使った12面体作品の制作
溶接研修4日目の現場にお邪魔しました。
本日の研修では、実際の製造現場でもよく使用される「ステンレス304」の材質の金属板を使用して、12面体の立体作品を作成します。
溶接作業で金属板を繋ぎ合わせて、最終的には球体を完成させるとのことですが、どのように仕上げていくのでしょうか。
これから研修を受講する社員に、この研修にかける意気込みを聞いてみましょう。
私が所属している部署は溶接課の中でも機械を使った作業がほとんどなので、手作業の溶接作業はあまり経験がありません。今回の研修内容については難しそうなイメージですが、他2人の受講者の技術レベルに追いつけるよう頑張りたいと思います。
普段担当する溶接作業では、薄板を繋ぎ合わせてカバーのような形状に加工する作業を主に行っています。同じ溶接とはいえ、今回の研修では立体を作るということで、普段と異なる作業内容に少し戸惑っていますが、もともとものづくりが好きなので、楽しみつつ技術を学びたいと思います。
1. 接合
まず、手のひらサイズの五角形の金属板12枚を用意します。
隣り合う板同士をホッチキス留めするように「アークスポット溶接」で仮接合します。
仮接合した部分を内側に曲げて折り込み、6枚の板を立体的な形状にします。
次に、仮接合した箇所を「TIG溶接」でより強固に接合していきます。
TIG溶接とは、片方の手に溶接トーチを、もう片方の手に溶接棒を持って手作業で行う溶接ですが、手作業だけに、個人の技量や熟練度によって仕上がりが大きく変わります。
難関ポイントの一つ目は、溶接部分をいかに美しく仕上げるか。
接合したい部分に溶加棒を使って金属を溶かし込むシンプルな溶接方法で、一見簡単そうに見えますが、この溶かし込んだ溶接部分を美しく仕上げるにはある程度の経験を積む必要があり、見た目以上に高度な技術が求められます。
例えば溶接面と溶接部の距離感やトーチの持ち方など、「構えの姿勢」ひとつで仕上がりに差が出るほど、TIG溶接は繊細な作業になります。
初心者と経験者では、このように仕上がりに差が出ます。
初心者は金属の酸化による「焼け」が発生しやすく、接合部分に「スラグ(溶接時に発生する金属のカス)」が多く付着する傾向にあります。
難関ポイント二つ目は、溶接作業による変色や錆の発生をいかに最小限に抑えるか。
金属は熱を加えることで酸化反応が起こり、黒く変色したり、錆が生じるなど、品質が低下します。
この酸化反応を最小限に防ぐために、「ミドルパルス溶接」と「バックシールド」で溶接作業を行います。
2. 検査
水圧テストポンプを使い、接合部の水漏れを確認するための「水圧試験」を実施します。
ここで水漏れが見られる場合、溶接による接合が不十分とみなされます。
接合部分から水漏れが見られた箇所については、再度溶接作業を行うことで接合部分の補強を行います。
しっかりと接合されていれば、内部からの水圧によって金属面が湾曲し、球体状に膨らみます。
3. 仕上げ
酸化反応を防ぐ方法を用いながら溶接作業を行っても、どうしても変色してしまう部分はあります。
この部分に対して電気分解で金属の表面を溶かしながら、変色を取り除く作業が「電解式溶接焼け取り除去」です。
大部分の変色はこの方法で取り除くことができますが、すべて綺麗に除去できるわけではなく、溶接作業を繰り返し行った箇所や、溶融した金属がダマになっている箇所は、変色が取れにくくなります。
受講者もやや苦戦している様子。
さらに、電気分解でも取り除けなかった変色部分や、溶接作業における金属の溶けだまりは、「グラインダー」を使って仕上げます。
溶接工としては、この焼け取りや溶けだまり除去の作業ができるだけ少ない工数で済むよう、溶接作業時から焼けを最小限に抑えるための努力や工夫が求められるのです。
こうした高度な技術や細やかな配慮が求められる溶接作業について、受講者のみなさんはどのように感じているのか聞いてみましょう。
Q. 溶接のどんなところが面白い・楽しいと思いますか?
溶接工はまだまだ男性の割合が多い世界なので、職場では私もサバサバした感じで働いていますが、プライベートではカフェ巡りが趣味だったり、「ポムポムプリン」のキャラクターグッズ集めが好きだったりと、思いっきり「女子」の時間を楽しんでいます。そのギャップを楽しみつつ、仕事とプライベートのオンオフを切り替えながら、楽しく仕事ができていますね。それに、溶接って実は繊細な作業になるので、丁寧な作業が得意な女性に向いている部分もあるんですよ。
溶接加工後の変形やひずみを直す作業が、特に自分が面白いなと感じるポイントです。作業に使う道具もさまざまで、中には難しい作業内容もありますが、それを乗り越えて納得のできる仕上がりになったときの達成感がたまらないです。
Q. 逆に難しい・大変と思われることを教えてください。
現状では溶接工は男性の比率が高いことから、男性の力加減や男性の身体のサイズを前提として行程の説明などされることが多いのですが、私は女性なので、どうしても説明どおりには進められないことも出てきます。作業用の道具や機材も、やはり男性用に作られたものがほとんどですし。その点当社では上司が配慮してくださり、なるべく軽い道具や、身長に関係なく作業ができる機材の導入など、女性でも作業がしやすい環境を整備してくれています。未経験から溶接の世界に飛び込んで大変なこともありますが、仕事をしやすい環境を整えていただいている点はとても有難いですね。
4. 応用作品制作
いよいよ最終日の研修6日目。
これまでの研修で一通りの溶接工程を習得したところで、次のステップとして、より大きな32面体の制作にもチャレンジ。
こちらが仕上りイメージ。うまく溶接できれば、このような金属製ハンドボールが完成します。
使用する金属板の枚数が増えるため、溶接箇所や仕上げ作業などの工程も多く大変です。
これまでの研修で習得した技術や講師からのアドバイスを元に、3人ともより美しい仕上がりを目指して丁寧に作業を進めていきます。
受講者同士協力し合い、これまで以上に丁寧な溶接作業を心掛けます。
水圧試験。どうやら今回は水漏れなし、仕上がりは良好です!
焼け取り作業。溶接作業が丁寧に行われていると、焼け取りもスムーズかつスピーディーに進みます。
ここが溶接工の腕の見せどころ。
5. 完成
日ごろからTIG溶接の現場で経験を積んでいる加藤(写真右)が、一足早く32面体作品の完成を迎えました。
ここで記念写真をパチリ。
この後、残り2名も完成に向けて引き続き作業を進めました。
研修を振り返って
制作実習を終えた受講者に、感想を聞いてみました。
普段の作業でも使用しているステンレス素材について、より詳しく学ぶことができました。現在資格取得を目指している溶接試験でも必要な技術が上達したので、合格に向けてさらに努力していきたいと思います。金属加工は細かい作業も多く難しい点もありますが、もっと腕を磨いて、より美しい製品を作り出せる溶接工を目指します。
今回初めて「ローリング法」にチャレンジさせていただき、基礎を習得できました。
普段仕事で作るものとは全く形状の違うものを作る作業だったので、ものづくりのワクワク感もあり、楽しみながら実習に臨めました。
研修開始当初は失敗の連続で不安もありましたが、毎回の研修で新しいことを学び訓練することで、これまで経験したことのなかった技術や手法を身につけることができました。講師の方にマンツーマンでより詳しく溶接について教えてもらい、溶接技術の奥深さを感じました。
杉原講師より
今回の研修では、図工の授業のように作品を作ってみる過程の中で、新しい加工・溶接の技術に触れ、楽しく学んでいただきました。
現代ではロボットを用いた金属加工技術が普及し、人間の手を使わずに、平均的で正確な仕上がりの製品を安定的に生産する企業が増え、その方が効率的であることは事実です。
しかし、私たち人間が手作業で技術と魂を込めて生み出した製品には、多くの発想とアイデアが込められていますし、そのことでより良い製品が生み出される可能性が広がります。